Once 3話 「カラフル」

「うお~~はえ~!」

 

新幹線に乗るなど、修学旅行以来だったので私は景色の移り変わりに釘付けだった。その姿が見っともないのか、リンは恥ずかしそうにしていた。大阪までの一時間、これといった会話もせず・・・いや、多分目線を合わせるのが少し気まずかったのだ。

 

 

 

 

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大阪駅からそう離れてない場所にあると言い、迷うことなくリンは路地を進んだ。居酒屋の、酒の臭いが漂う街は薄汚れていて、とても一人じゃ歩こうとは思えない。

 

「着いたよ」

 

そこは、周りをマンションで囲まれたところに有った。業務用スーパーは混みあい、主婦の方々がひっきりなしに目の前を通る。私は帽子を深くかぶりなおした。視線を感じたように思えたが、すっかりそれは街の景色に溶け込んでいた。

 

「ねぇ」

 

私は前に進むリンに声をかけた。

 

「何?」

「本当に行くの?」

「当たり前でしょ、今更何言ってんの」

「うちらまだ高校生だよ、もしばれたらやばいよ」

「だから私服で来たんでしょ?」

「そうだけど、てか慣れすぎじゃない?」

「だって10回目だし」

 

耳を疑った。一体どこに大阪に10回もいくお金があるんだ。

 

「先入るからね」

「ちょ、待たれい!」

 

中は薄暗い、しかも階段で上まで行けと。途中、今日出演するストリッパーの紹介と写真が飾られていたが、写真・撮影厳禁という表記に、緊張で心臓が保てなくなる。閉鎖的な空気感に後退りしたがったが、リズミカルに階段を昇るリンの後ろ姿が気になり、懸命に追いかけてしまう。

 

「いらっしゃ~い」

 

受付に、女性が二人立っていた。リンは慣れた動作で券売機からチケットを購入する。

 

「はい、真夜の分」

「あっ、ごめん。払うよ」

「いいって、今日は私が誘ったんだから」

 

どうやら、このチケットを買う事により一日中滞在可能らしい。値段も3000円と、想像していたより安い。受付にそれを渡すと、代わりに一回無料というチェキの引換券を受け取った。簡単な館内の説明を受け、私達は劇場に入った。

 

 

 

 

 

平日の昼間だというのに、席はほとんど埋まっていた。取り敢えず空いた席を探し座って周りを見回す。男性の客ばかりだと思っていたが、全然違う。女性客やカップル、後ろには老夫婦、外国人の観光客もいる。あれ?私が想像してた空間ではないぞ?

 

「色んな人がいるでしょ。おっさんが多いのは事実だけど、普通に若い人もいるし、デートで来る人もいる。女性のみのファンクラブもあるんだから」

 

へぇー、としか言えない。どこか和やかな劇場の空気は、少し前宝塚を見に行った時のソレと似ていた。いやらしさ100%で来た私がぷかぷかと浮かんでしまう程だ。なんとなくだが、私の目的とほかの人達とは徹底的に違う何かがある。横を見ると、リンの瞳は輝き、ステージを見つめていた。私の緊張の糸も少しほぐれた気がした。

 

 

 

 

「真夜、一人目だよ」

 

劇場が暗くなった。スポットライトに向けて、女性が歩く。あれ?最初から裸じゃないんだ・・・。女性は、流れるBGMに合わせ踊りを始めた。息遣いが聞こえる程の静寂の中、優雅にステージ上を駆け巡る。一瞬に映る、妖艶な表情が見るものを、この世界観に誘う。数十の視線に先で繰り広げられる、激しい踊りに目が離せない。

 

 

パラリ、曲が変わると同時に、女性は羽織っていた布を外した。その時、隠されていた乳房が露わになった。いつもの私なら、エロイ場面でキャーと叫んでしまうだろう。ただ、すっかりその世界に沈み込んでしまっており、声を出すことを忘れてしまった。

 

 

 

 

 

何より、美しい。初めてだ、こんな感情になったのは。

カラフルに彩られた布が開けて、本当の姿を見せられたのだから。