Once 1話
将来の夢をずっと考えていた。たぶん、難しい事はしない。周りの女の子と同じ、全く同じがいいわけじゃないけど、きっと普通の人になる。適当な大学を選び、適当な大人になり、適当に生きていく。誰も止めないだろう。それがこの世界の当たり前になっているから。
さっき先生にも、そんなことを伝えた。書類に目を通し、ハイハイと返事だけしていた。私、詰まんない事言ったのかなって不安になったけど、全然思ってないだろうな。
「私の人生ってこれからどうなると思う?」
下校途中のコンビニで、立ち読みしながら真夜は尋ねた。
「400字の原稿用紙がギリギリ埋まる位の人生だろうな」
リンは視線を向ける事無く、淡白に答えた。
「なにその例え」
「的を得てると思うけどね」
「・・・なんとなく、私もそう思う」
「先生から突っ込まれたか?」
「ううん、ただ、リンはどうかなって」
「興味ある?」
「ないけど、一応聞いときたくて」
「ないんかい」
そのまま沈黙が続く。雑誌をめくるペースも変わらない。思えば昨日もおとといも、その前も同じようにしていた気がする。あぁ、何も変わらない。日が傾くのが早くなっていくのを思うように、それは些細だ。
「私って、可愛いかな」
発言にしては、リンの表情は真面目で、それが面白くてつい聞き返してしまった。
「だから、私ってかわいいかな?」
「・・・普通?」
「どれくらい?」
「わかんないよ~」
「クラスの女子の中じゃ、何位?」
正直、下から数える方が早いがそれを言えるような雰囲気でもないので、適当に手のひらを広げた。
「5位か・・・」
「う、うん、5位」
「5位か・・・」
「あ、でも前の文化祭でやったダンス、あれ男子の受け良かったし、加点式で行けばもっと上かも・・・」
「5位かぁ~~~~~~~」
フォローが下手過ぎる。おそらく5位とか4位とかは関係ないし、かといって変に持ち上げるのもお可笑しいし、あぁ難しいな。
「真夜!明日から私を鍛えてくれ!」
「・・・筋肉つけたいの?」
「そうだ!!!」
コイツどこで火が付いたんだ。そもそも筋肉付けたところで1位になれるわけない。
「そんな専門的な事は知らないよ。ダイエットで軽く運動する位で」
「いいんだ、それで!プロポーションを変えたいのだ私は!」
「充分スリムでしょ」
「はぁ?これがぁ?このお腹でかぁ?」
「・・・まぁ、確かにこれはなぁ」
「よし!まずは家までランニングしよう!ほら早く!」
「チキン買うんじゃないの?」
「もう買わない!」
珍しい事もあるもんだ。熱で休んだ時くらいでしかチキンを買わないリンが、目もくれず外に飛び出した。しかし、なんとなくわかる。三日坊主がお得意の女だと私は知っている。どうせ飽きて変わらない毎日に戻るって。どうせ。
気が付くと、彼女は遠くを走っていた。夕焼けに照らされたその姿は薄暗くよく見えない。影が濃い、もうすぐ季節が変わるんだな。この景色も小さいころから全く同じで、今はなんとも思わないはずなのに、ふと立ち止まると、小さな影の変化に驚かされた。
「真夜、遅い!」
「早いんだよ!」
「もう、置いていくからね!」
「ちょ、待てや少しくらいよ」
息が切れて立ち止まった。遠くでクスクスと笑うリンがあまりに腹が立つので、私は叫んだ。
「リンは!何に!なりたいの!」
向きを変えたリンは、私のそばまで走ってきた。
「三日坊主だって笑わないでよ、本気なんだもん」
「・・・」
「私ね、将来ストリッパーになる!」
将来の夢をずっと考えていた。たぶん、難しい事はしない。周りの女の子と同じ、全く同じがいいわけじゃないけど、きっと普通の人になる。適当な大学を選び、適当な大人になり、適当に生きていく。誰も止めないだろう。それがこの世界の当たり前になっているから。
リンはまた、クスクスと笑って、再び走りだした。夕方の日差しがいつにもなく暑い。
「すっげ・・・」
リンの姿が見えなくなるまで、真夜は突っ立っていた。